水素分子とは

本章では、水素分子の生物学的特徴として、水素分子の生物活性とその作用機序、生体内動態、細胞内動態および安全性について解説致します。

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1.1 活性酸素・フリーラジカルとは

酸素は空気中の約20%を占め、呼吸をする生物においてエネルギー産生に必須のものです。酸素は体内に取り込まれた後、ミトコンドリアと呼ばれる細胞内の小器官(オルガネラ)に取り込まれエネルギー産生に利用されます。しかし、その一方で消費酸素のうち数%は反応性の高い活性酸素になります。ヒトの生体内にはスーパーオキシド(·O2-)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシルラジカル(·OH)など、多くの活性酸素が存在します。

 我々の生体をはじめ、すべてのものは分子から成り立っていますが、その分子は原子核と電子から構成されています。通常、2個の電子が対になって存在しますが、まれに対になっていない電子(不対電子)があります。活性酸素の中でも、特にこの不対電子を持つものを総称してフリーラジカルと呼びます。不対電子は対になろうとする性質があるため、フリーラジカルは不安定で反応性が大きいです。

1.2 活性酸素の役割

活性酸素は生体にとって有益な場合と有害な場合の両側面(いわゆる「両刃の剣」)を持っています。·O2-やH2O2は、高濃度では細胞毒性作用を示しますが、低濃度ではシグナル伝達における分子として機能し、アポトーシス、細胞増殖、細胞分化などの生物にとって重要な役割を示しています。また、高濃度のH2O2はミエロペルオキシダーゼにより次亜塩素酸(HOCl)に変換され、細菌の攻撃を生体が防御する役割を示しています。更に、活性酸素の一種である一酸化窒素(·NO)は細胞内のシグナル伝達や血管の拡張に重要な物質です(Ohta Sら, 2012)。

 一方、活性酸素の中でも·OHや·NOから生成されたペルオキシナイトライト(ONOO -)は有害な側面を持っています。特に、図1-1に示すように·OHは·O2-に比べて100倍の酸化力があります(Setsukinai Kら, 2003)。これらの有害な活性酸素は私達の身体を構成している核酸(DNA)、脂質、タンパク質と反応し、これらを酸化させます。活性酸素によって惹起された酸化ストレスが、癌、種々の生活習慣病、老化などの一因となります


図1-1 活性酸素の酸化力の比較
(Setsukinai Kら, 2003の文献から改変引用)

1.3 水素分子の生物活性

当社はアルカリイオン整水器(電解水整水器)で作られたアルカリイオン水の生体に対する有益な作用はアルカリイオン水中に微量に生成された水素分子(H2)の作用ではないかと考え、1995年頃からH2を効率的に生成させる器具や装置の研究開発とH2の生体に対する抗酸化作用の研究を継続的に行い、技術の特許化を図ってきました。すなわち、2005年に当社の電解槽で作製した中性H2溶存水(1.6 ppm)の飲用が、AAPHと呼ばれる酸化剤で誘発したラットの肝臓の酸化ストレス障害を抑制する先駆的な研究結果を論文に発表しました(Yanagihara Tら、2005)。また、2011年には同様な中性H2溶存水(1.4 ppm)のラットに対する飲用が、脂質の酸化マーカーを改善させ、また同時にDNAマイクロアレー解析から肝臓中の酸化還元に関与している遺伝子の発現を調節していることを発表しました(Nakai Yら, 2011)。さらに、2015年には、これらの研究開発の集大成として、米国の医療ガス専門の国際誌に水素を体内に送達するための器具や装置の作製方法と水素濃度の変化を測定した試験の結果を報告しました(Kurokawa Rら, 2015)。

  一方、当社の研究とは別に、2007年に大澤らによりH2ガスの吸入が脳梗塞モデルであるラットの虚血再灌流障害を抑制する論文が発表されました(Ohsawa Iら、2007)。この論文を契機として、H2は細胞にとって重要な活性酸素である·O2-やH2O2には反応せず、特に酸化力と反応性が強い·OHやONOO-と選択的に反応して無毒化することが広く認知されるようになりました。ビタミンCなどの抗酸化力(還元力)の強い物質は還元反応後に酸化力の強い物質を作り、DNAに障害を与えますが、H2は有害な活性酸素のみを選択的に消去して、水に変えますので、極めて安全なことが分かったのです(Ohta Sら, 2012)。

1.4 水素分子の生体内動態

常温常圧で水に溶解できる水素分子(H2)は約0.8 mM(1.6 ppm)です。H2は生体内では大腸内の腸内細菌により常時生産されています。腸内細菌で生産されたH2は呼気として体外に排出され、また他のガスと一緒になり肛門から排出されます。溶存H2水を飲んだ場合、主としてH2は胃に隣接した組織や臓器に拡散されます。しかし、一部のH2は消化管から吸収され、血液を介して全身に循環され、最終的には呼気として排泄されると推察されます。当社では、ラットに各種投与経路(経口投与、腹腔内投与、静脈内投与、ガス吸入)でH2水(1.25~5 ppm)またはH2ガス(1~4 %)を投与した場合の詳しい組織内濃度を調べました(Liu Cら, 2014)。その結果、H2の組織内濃度は大部分の組織でH2の濃度に依存して高くなることが分かりました。しかし、図1-2に示しますように投与方法によって高濃度に分布する組織が異なりますので、対象とする臓器や疾患に最も適した投与方法を選択する必要があることも同時に分かりました。

http://www.nature.com/articles/srep09629
http://www.nature.com/articles/srep05485#change-history


図1-2 各種投与経路で水素分子を投与した場合の組織内水素濃度
(Liu Cら, 2014の文献から改変引用)

1.5 水素分子の細胞内動態

H2の生体内における拡散速度は他の物質に比べてはるかに速いです。すなわち、図1-3に示しますようにH2は細胞膜を容易に通過して細胞内小器官に到達し、細胞内の遺伝情報を司っている核や活性酸素を発生させているミトコンドリアに到達して、抗酸化作用を示します。一方、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEには抗酸化作用が認められていますが、水溶性ビタミン(ビタミンB、ビタミンCなど)は疎水性の細胞膜を通過できず、脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEなど)は細胞膜に留まるので、これらの物質の細胞内小器官への到達性は悪いと報告されています(Ohta Sら, 2012)。


図1-3 水素分子とビタミンの細胞内動態
(Ohta S, 2012の文献から改変引用)

1.6 水素分子の作用機序

H2には、活性酸素の·OHやONOO-を消去して抗酸化作用を示す以外に抗炎症作用、抗アポトーシス作用、抗アレルギー作用、脂質代謝改善作用、神経保護作用、細胞内シグナル伝達の調節作用など多岐にわたる作用が報告されており、現在までにH2の効果を報告したに原著論文は約410報あります。この中には前項でご説明したような·OHやONOO-の消去だけでは説明できないものもあります。最近の研究から、H2が細胞内シグナル伝達や遺伝子発現を制御するメカニズムの一部が解明されましたので、次の章で詳しくご説明します。

水素分子の文献

1.7 水素分子の安全性

H2ガスは、酸素との反応においては4.7%が爆発下限で、大気との反応においては4.0 %が爆発下限と報告されています。しかし、通常の環境では10 %以下の濃度では危険性がありません。ラットにH2水を28日間連続で強制経口投与(20 mL/kg/day)した亜慢性毒性試験で、全く毒性所見は認められませんでした(Saitoh Yら, 2010)。また、ヒトを用いた臨床研究でも何等H2に起因した有害事象(副作用)は認められておりません。H2は生体内では大腸内の腸内細菌により常時生産されている物質ですので私達の身体に害を与えません。また、H2ガスは酸素ガスおよびヘリウムガスと混合されたガスとして、古くから深海へのダイバーの潜水病予防に利用されてきました。これらのことより、H2の安全性はきわめて高いと考えられます。

1.8 参考文献

  • Kurokawa R, et al (2015); Med Gas Res, 5: 13.
  • Liu C, et al (2014); Sci Rep, 4: 5485.
  • Nakai, Y, et al (2011); Biosci Biotechnol Biochem, 75: 774-776.
  • Ohsawa I, et al (2007); Nat Med, 13: 688-694.
  • Ohta S. (2012); Biochim Biophys Acta, 1820: 586-594.
  • Saitoh Y, et al (2010); Toxicol Ind Health, 26: 203-216.
  • Setsukinai K et al (2003); J Biol Chem, 278: 3170-3175.
  • Yanagihara T, et al (2005); Biosci Biotechnol Biochem, 69: 1985-1987.